~鋼(はがね)の超絶技巧画報~ 髙荷義之展

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ボックスアートの絵師・髙荷義之に会うべく東京文京区にある弥生美術館を訪れた。美術館の中で、髙荷はカメラの被写体となっており、自分自身が描いた迫力ある原画に囲まれ、やや高揚しているように思われた。

少年の冒険心を掻き立てる、わくわくする絵が描きたかった

  • 迫力ある絵は思いを強調したため

    一品一品の髙荷義之の原画には、圧倒的なリアル感とストーリー性がある。それはどのような発想からなのだろうか。静止画にもかかわらず、戦車は確かに動いており、まるで、戦争映画の一場面を見ているような緊張感が伝わってくる。 「プラモデルの戦車やロボットが一体あるだけでは、ちっとも面白くないでしょう。たとえば、火を噴いて爆破しているとか、武器を持って戦っているとか。それで初めて、ユーザーが『ああ、かっこいい』『ああつくりたい』となるんだと思うんですよ。一場面でストーリーが膨らむような、わくわくする絵が描きたかった」と髙荷は語る。 美しく、バランスのとれた絵を描こうとすると、強調するところを少なくするので絵として素晴らしくても、感動そのものが伝わりにくい。絵師のよいと思うところを思い切って強調するから、人の心に突き刺さる。

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  • 幼い頃から「何か違うぞ」と思って描いていた

    「幼い時にこの人は何でこういうふうに描くんだろうと。私ならこう描くぞ、というのがあったね。だから、若い時に怒るというか、ちょっと違うぞ、違うぞと思ったやつは見所あるんだよ。私のロボットの絵を見て、腹立てていたやつが今、描いているんだよ。だから、より完成しているわけだよね」(笑)とユーモアたっぷりの表現で語る。 髙荷の探究心は、高校時代に描いたアメリカ先住民族の緻密なスケッチにも現れている。 資料や本を入手するのが難しかった当時、英語の原本を見つけ、それを調べながら描いた。結局、何が書いてあるか知りたいために原文まで翻訳してしまった。

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  • 少年のためという気分で描いた

    髙荷の挿画は常に少年の冒険心を掻き立てる。 「高校を出てすぐ商売をはじめたから、まだ子どもだったんだね。自分が見たい絵を描こうという気があった。ただそんな都合のいい仕事の依頼っていうのはないからね。そうもいかないんだけれど、気分としたらそうだったね」と当時のことを思い浮かべるように目を細める。「描くのは大人のためとか、女の子のためではなくて、少年のためという気分があったね」 髙荷は高等学校卒業後、挿画家を志して郷里・前橋から上京する。少年時代から憧れていた小松崎茂に弟子入りし、数か月で独立する。同じ弟子のひとりである大西將美をして「天才だからね」と髙荷のことを言わしめる。今となってはわからないが、小松崎は髙荷の類まれな才能を見抜き、早く独り立ちをさせたかったのではないだろうか。

  • ロボットアニメは感情を持ったメカ

    1982年頃から髙荷は、超時空要塞マクロスや機動戦士ガンダムなど、ロボットアニメの巨大メカという新境地を開拓する。 「最初はちょっと何だ、何だと思ったけど。描けばみんな同じなんだね。軍艦や戦車が表情を持ったと思えばいいんだよね。笑ったり怒ったり…。感情を持ったメカと思えばいい。ただ、動くかどうかは、科学者ではないから、そこまで考えない。これは動くんですと思えば、動くんですね」(笑)とさらりと言ってのける。

  • 伝説は真実なのか!?

    髙荷には「下絵なしで描いた」「小学生と同じ水彩絵具を使っていた」など、数々の伝説が残る。それらは事実なのだろうか。 「下絵を描かないで描くときもあったね。挿絵の時は、ポスターカラーの白黒だから、調子づいているときはどんどん描けるんだよ」。下絵なしの伝説は本当だった。プラモデルのボックスアートや表紙はさすがに下絵を描いたが、大まかなものだったに違いない。筆を走らせる時には頭の中のイメージが次々にほとばしってくるのだろう。週刊誌の仕事では、3日3晩徹夜し、映画を見に行ったこともあった。 もうひとつ、水彩絵具の伝説についてはどうなのだろう。 「東京にいたときは、画材屋さんが来てくれたんで、いいものだろうものを使っていたね。しかし、いなかに引越したら、近所の駄菓子屋さんに売っている絵具以外になかったからね。小学生が『赤色がなくなっちゃったよ』と買いに来るために水彩絵具を置いている。私も『白がない』といって買いにいったね。一番困ったのは筆だった。筆は本当にいいのがなかったんだよ」 画材を選ばないという伝説も本当だった。 現在はアクリル絵具の使用が多くなっている。「細い線やデリケートな明暗だとか、水彩絵具には捨てがたい味があると思い始めています」。昔は全部水彩絵具を使っていた。 存在感がある原画が約350点集結した「鋼の超絶技巧画報 髙荷義之展」が、東京都文京区の弥生美術館で、14年12月25日まで開催している。これだけ揃うのは最初で最後と言われている作品展だけにその迫力を体感してみてはいかがだろう。

プロフィール
髙荷義之 たかによしゆき

少年時代に購入した『冒険世界』の表紙をきっかけに、小松崎茂のファンとなる。群馬県立前橋高等学校卒業後の1954年、挿画家を志し日本出版美術家連盟名誉会員(物故)小松崎茂に弟子入り。同年11月に独立し、月刊誌「少年」などのグラビアページに西部劇などのイラストを描く。その後、週刊少年誌が相次いで誕生し、1960年代に戦記ブームが起きると戦車・軍艦・航空機などのメカニックイラストを描き始める。「週刊少年サンデー」「週刊少年キング」などに迫力ある作品を掲載した。
小松崎の成功によりプラモデルのボックスアートの需要が高まり、高荷も1963年からこの仕事も手がけるようになる。以後、タミヤの戦車、日本模型の軍艦、フジミ模型の航空機などのシリーズを中心に数多くの作品を提供し、第一次プラモデルブームに貢献した。1970年代以降はボックスアートが創作の中心となる。
精密さと共に、鋼鉄の質感を伝える写実的なタッチが特徴に挙げられる。また、背景をなす硝煙、波しぶき、雲海などの荒々しい筆遣いや、兵器の残骸や歩兵などのレイアウトで、戦場の臨場感を伝える手法も巧みである。なお画材は初期は水彩絵具、1980年頃以降はアクリル絵具を使用している。
その他のアニメ作品では、『超時空世紀オーガス』(今井科学)、『超攻速ガルビオン 』(今井科学)、『超獣機神ダンクーガ』『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(バンダイ)、『ファイブスター物語』(ウェーブ)、『マクロス7』(ウェーブ)、『サクラ大戦』(マーミット)などがある。2007年にはバンダイの宇宙戦艦ヤマトの大型キットのボックスアートを描いている。

 

タカニ・アートワークス
~鋼(はがね)の超絶技巧画報~ 髙荷義之展

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プラモデル・ボックスアートの第一人者であり、「戦車画」の最高峰として国内外に高く評価されている絵師・髙荷義之(1935~)。 1954(昭和29)年、髙荷は、挿絵画家を目指して郷里・前橋から上京しました。それから60年。彼の類まれな才能は、雑誌の表紙・挿絵だけにとどまら ず、プラモデルのボックスアート、書籍装画、さらには「超時空要塞マクロス」といったテレビアニメをモチーフとしたプラモデルやPCゲームのボックスアー トなど多彩なジャンルにも広がりをみせ、今も多くの人々を魅了し続けています。
本展は、原画を中心とした約350点の作品・資料を展観し、60 年の画業の軌跡をご紹介する初の本格的な展覧会です。髙荷は、単に写実的に描くだけではなく、そこに私たちの心をゆさぶるドラマを展開させました。原画か ら放たれる圧倒的な存在感と重厚感、そして繊細緻密な筆のタッチをどうぞご堪能下さい。

会  期 2014年10月3日(金)~12月25日(木)
会  場 弥生美術館
開館時間 午前10時~午後5時(入館は4時30分までにお願いします)
休 館 日 月曜日
ただし10/13(月・祝)開館、14(火)休館、
11/3(月・祝))開館、4(火)休館、
11/24(月・祝)開館、25(火)休館
料  金 一般900円/大・高生800円/中・小生400円
(竹久夢二美術館もご覧いただけます)

髙荷義之先生に会えるチャンス! ギャラリートーク&サイン会

①11月9日(日)午後2時~
②12月(日時は弥生美術館HPにてお知らせします)
*詳細は弥生美術館HPをご参照下さい。

撮影:タカオカ邦彦 取材・文:浅原孝子