細谷正充の挿画コラム【1】岩田専太郎

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岩田専太郎の絵の人気

日本出版美術家連盟の賛助会員の、細谷正充と申します。本業は文芸評論家です。ちょっとした縁があり、今回より挿絵に関するコラムの連載を始めることになりました。といっても絵に関しては素人なので、軽い読み物になる予定です。前口上はこれくらいにして、まずは当会の成立に深くかかわった、岩田専太郎を取り上げることにします。
1972年、実業之日本社より、『日暮妖之介・暁に去る』という単行本が刊行された。作者は笹沢左保。父親と許嫁を殺した仇を捜す旅を続ける一方、自身も不幸な出来事から仇として追われる虚無的な浪人・日暮妖之介を主人公とした、連作シリーズだ。「週刊小説」に連載されたものであり、そのとき、挿絵を担当したのが岩田専太郎である。写真の書影を見ていただければお分かりのように、その挿絵の何点かが、単行本の口絵として収録されている。しかも表紙には麗々しく、「付 岩田専太郎傑作挿絵集」と記されているではないか。もちろん岩田専太郎の絵の人気の高さがあったからだろうが、かつての挿絵は、これほど読者に訴求する力を持っていたのである。近年、ライトノベルの挿絵の人気が逆流する形で、一般文芸の書籍でも挿絵が収録される事例が増えてきた。だが、もともとエンターテインメント・ノベルと挿絵は、二人三脚で成長してきたのだ。その事実を、この一冊が教えてくれるのである。
ところで「日暮妖之介」シリーズは、その後、第二弾の『日暮妖之介・辻に断つ』が上梓されたが、こちらには口絵が付いていない。さらに完結篇となる第三弾は刊行されなかった。後に集英社文庫で、未収録部分まで含めた全一冊の『日暮妖之介 流れ星破れ笠』が出版されるのだが、そのときのカバーを担当したのが、岩田専太郎の死去により連載の挿絵を交代した堂昌一である(他にも、幾つかの連載の挿絵を、岩田専太郎から受け継いでいる)。そうした挿絵交代劇を踏まえて、文庫カバーに堂昌一を起用したのだとしたら、なんとも趣き深いことである。